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談戯奇談
第1章 道あんない

はて、これまた奇妙なことだ。たしかお手伝いの絹代さんが用意してくれた昼食の握り飯を食べて直ぐのはず……。
大きな屋根の寺の背に広がる、赤々とした夕暮れを私は眺める。
しかし屋根は立派だが、それを支える柱や壁は朽ちて所々が虫に食われたのか穴が開いていた。
「こりゃ!」
「痛っ……」
寺を見上げていた後頭部にいきなり痛みが走った。振り返れば黒い着物に袈裟を掛けた爺さんが、竹のほうきの柄をこちらに向けて、二発目を打ち込もうと身構えている。
「何をいきなり…っ……」
「それはこっちの台詞じゃ! おぬしの足元をよく見るがいい!」
「足元?……っ…」
確めるなり私は飛び退いた。
裸足で立っていたその真下。枯れ葉の山からは燻る煙が立ち上る。
「早うどかんか!」
「痛っ……」
二発目が今度は私の額を直撃した。
コブが出来そうな一歩手前の痛み。それを堪え、額を庇いながら私は礼を言う。
「火傷を負うところでした。教えて頂き有り難うございます」
私は確かに丁寧に頭を下げたのだが……。僧侶は先程私が立っていた枯れ葉の山を竹ぼうきで慌てて払っていた。
散らかる枯れ葉の下から黒い煤の塊が覗いている。
「なんとまあ…っ……まるで草履のようではないか……」
涙声になって僧侶が手にしたそれは、おそらく私が枯れ葉の上から踏み潰してしまったのであろう、平らに伸びた焼き芋だ。

