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藍の果て
第2章 一夫多妻制
リオは頷いてバスルームへと向かう。
大きなゴーグル、身体を隠すためのサイズの合っていないTシャツ。
どれもが泥で汚れていて、おまけに頬や腕や額にも乾いた泥が張り付いている。
唇も渇いて、唯一誇れるブルーの澄んだ瞳でさえも、過剰な重労働が祟って薄い隈が出来てしまっている。
分かってはいるものの、溜息しか出てこない。
「こうも違うのかなあ。……僕も、もう少し大人になったら……」
脳裏に過る考えはイケない事の様な気がして、打ち消すように首を振る。
頬を二、三度ぺちぺちと叩くと鏡をもう一度見つめた。
「駄目だよ、約束したんだ。僕は……〝男”なんだから」
余計な考えを削ぐように勢いよくTシャツを脱ぎ捨てる。
十二歳の身体は成長し始め、少しずつ体が丸みを帯びてきている様に見える。
追突事故の頃の子供の華奢なだけではない、女性らしい肉付きが凹凸の身体を作り始めている。
隠している晒し布をゆっくりと解いていくと、縛りから解放された様に膨らみかけた双丘が呼吸と同時に震える。
「ん……、もう少し、きつく巻かないとダメなのかな?」
自分でやるのは難しい。息苦しい感じも慣れないが、此処での安息を守るためならば仕方がない。
湯を張った浴槽に足からゆっくりと浸かると、重労働の疲労が一気に解消されていく気がした。
手で掬って顔を洗う、湯加減が心地いい。
採掘場の男たちの会話を思い返していた。
ここの男たちにとって、身に囲う女の数はステータスであって、女も容認している。
ここで生きるには大切な事だと……。
自分もまた身を守るために男の姿で居ると分かっていても、少女としての自分の心は憧れが拭えない。
「僕もいつか……素敵な人と結婚、出来るのかな?」
幸せそうに微笑み、健気にデイジーの帰りを待つユリアの姿を見ていると、どうしても素敵だ、と思ってしまう。
ユリアはデイジーの事を心底愛しているのだろう。
デイジーに例え、第二、第三の妻が居たとしても。
恐らく妻、だけの話ではない。デイジーを見ていると何となくだが、分かる。
そういった契約上の下に居ない、女性の影もある事を。