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藍の果て
第3章 陰謀
「デイジー、遅いね……」
スープを片付けているユリアに声をかけた。
皿を洗いながら心配そうに窓を見つめるユリアを見ていると、どうしても居た堪れなくなってしまう。
「あ。僕、すぐそこまで見に行ってみようか?」
「駄目よ。危ないわ、リオ」
「大丈夫だよ。僕だって、一応デイジーから護身術は習ってるからね」
リオは自分の部屋に収めている短剣を腰に差す。
炭鉱に出向かない日は、デイジーから常に鍛錬を叩き込まれていた。
戦闘に関して根っからの素人と言うわけではない。
「大丈夫、うん……大丈夫だ」
何度も言い聞かせながら、玄関へと向かっていく。
デイジーに留守を任されているのだ。いざという時にはユリアだけでも守らなければならない。
廊下が軋む音がやけに大きく聞こえた。
何時の間にか、外は雨音が響いている。
何も持たずに出かけたデイジーは、濡れて帰ってくるだろうか。
その時……ドアノブが捻られた。
「デイジー……?」
何も反応が無く捻られたドアは少し隙間を見せただけで、誰も入ってくる気配が無い。
妙だった……それは確かに。
ゆっくりと近づいていき、隙間が空いたドアをゆっくりと開ける。
それは、雨に濡れていた。
黒いレインコートだろうか、目深に被って、ただ立ち尽くしている。
デイジー……。一瞬その名を呼びそうになったが、直ぐにそうではないと理解した。
目深に被られたフードから、鋭い眼光が此方を睨み返していた。
「だ……れ……?」
答えを待つよりも早く、レインコートの人物が手を伸ばしてきた。
いや、そんな生易しいものではない。
獲物を捕らえるように的確に、リオの喉元を締め上げたのだ。
リオの小さな身体はすぐさま壁に打ち付けられ、更に逃げる隙もなく圧迫される。
「かっ、はっ……、あ、ぐっ!」
息をしようと、手を掻き毟り足掻くが、リオの力では歯が立たない。
歪められた唇が狂気的な笑みを浮かべて、そこから覗く獣の様な八重歯。
喉を鳴らす様な笑い方が不気味さを際立たせた。
「ククッ……留守を守るのが、ただのガキとは不用心だなぁ、オイ」
掠れた様な低い声で男だというのが分かる。
男は、静かにこう呟いた。
「ここか?デイジー・クルスの家はよぉ」