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藍の果て
第3章 陰謀

銀の刃は宙を舞って、白いシーツに突き立てられる。
一瞬の出来事だった。
再び組み伏すようにサラを押し倒したが、意味合いは交わりなど甘いものではない。




「……どういうつもりだ?」



低く冷淡な声がサラに浴びせかけられる。
両腕を拘束され見上げれば、奇妙に光る紅い瞳が睨みつけている。
瞳を細めたサラは、それでもカジノで出会った時のように微笑んでいた。
男を誘う様な艶のある笑み。





「どういうつもり、ですって?本当に分かっていないの?」





確かに女はパルバナ民族にしては色白だ。
パルバナの男達が『カジノに良い女がいる』と騒いでいたのは知っていた。
が、まさか……。




「俺を探って、パルバナに潜入してたのか」




一つの答えが導かれると、サラは厚い唇を歪めて笑う。



「うふふっ。そう。だって、私……貴方の事何も知らなかったのよ。でも、本当に素敵ね……あの人が夢中になるのも分かるわ」




快楽の波に満たされた時より、恍惚とした表情を浮かべてサラは囁く。
甘い呪いの様に響く言葉は、デイジーを更に苛立たせる。
その表情を汲み取っているのか、下に敷かれているはずの女の方が饒舌だった。



「あの人は、デイジー……貴方のことばかり語るの。

憎しみ、って人を盲目にさせるのね?私は何時も傍にいて、あの人の事を考えて、見つめているのに……

あの人の中には、貴方しか居ないのよ。デイジー。憎らしいわ……、女だったら殺してやろうと思ったのに……ふふっ、好い男、だったなんて」



〝可愛らしい名前なのに、ね”


女を拘束していた手が細い首へと宛がわれる。
呼吸を止める為に力を込めると、酸素を無くした魚の様に女の口が動く。
このまま絞めてしまっても構わなかった。




「か……はぁっ……、こ、ろ……し……」




女は唇を必死に動かして、囁く。



『殺して、良いの?』





思わず手の力を緩めてしまった為に、サラに手を振り払われる。
それでも苦しかったのだろう、何度か咳き込んだサラは大袈裟なほどに肩を竦めた。



「ね、デイジー……。本気で私だけが乗り込んだと思ってる?


大切な物を奪われた人間が……奪った人間を、もっとも苦しませる復讐って、何だと思うの?」



甘い呪い。
女は彼の耳元に刻み込んだ。








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