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藍の果て
第4章 バルトの復讐者
「リオ!」
ただ事ではない物音に気付いたのか、キッチンから出てきたユリアが悲鳴に近い声でリオを呼ぶ。
しかし、その声に一番に反応したのは全身黒ずくめの男だ。
ゆっくりと振り返りながら、獣の様な小さな牙を見せて笑う。
「ガキには勿体ねぇな。テメェの女か?」
喉を鷲掴みにされているリオからの返事はない。
苦しそうに眉間に皺を寄せ男を睨み返すものの、酸欠で瞳には涙の膜が張っている。
つまらなそうに鼻を鳴らした男は、力のままに小さな身体を床に叩き付ける。
木目に頭を打ち付けると猫のように蹲る。
「うぅぅっ……」
「リオッ! もう、やめてっ!この子が一体何をしたって言うんですか?!」
庇う様に駆けてきたユリアが蹲る身体を抱きしめながら訴える。
温厚な彼女の悲痛な叫びを聞くのは、初めてだった。
彼女の訴えに首を傾げていたが、やがて喉の奥から笑いを堪えている様な残忍な笑みが滲んだ。
「クククッ……ッ。ハハハッ、これだから平和ボケした奴らは困るぜ!
別に、そのガキに恨みも何もねぇよ。そのガキが寝てる理由は……
弱ぇからだろ?
……にしても、ガキはつまらねぇな。次はテメェだ……女!デイジーの女なら、殺すより面白ぇ事しても良いな」
捻り上げるように手首を掴んだ力に容赦は無い、睫毛を伏せて痛みを堪えるユリアは男から顔を反らしながら頭(カブリ)を振る。
「離してっ!いやっ、離してくださいっ」
「あぁ?離す訳ねぇだろうが。テメェは奴への交渉の大事な餌なんだ。オラッ、来い!」
ユリアの腕を強引に引こうとした時だった。
黒ずくめの男に向かって、鈍い輝きが刺さる。
背を反らすように反射的に避けたように見えたが、男の頬には一本の紅い線が入る。
パサッ。
その勢いか、フードは外れて伺えなかった風貌が明らかになった。
リオと同じ。
珍しい白銀の短髪で、同じく雪のように白い肌。
澄んだブルーの瞳。
ただ、ずっとリオよりも目つきが悪く、まるで獣の様だ。
耳にもピアスだろうか、三つずつ装飾品が飾られている。
どれも高価そうなものだが、その口ぶりは貴族などとは程遠い。
頬の紅い筋を拭いながら、男は再びリオを見つめて笑う。