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藍の果て
第7章 疑惑
時刻は正午は経過した頃だろうか。
市場にやってきた女性たちは、夕飯の買い出しやらに追われて、再び賑わいを見せている。
その人並みに沿いながら、リオはジークの手を引いて市場を案内していた。
「ジーク、こっちだよ。これね、凄く美味しいんだ」
「あ。これ、付けてみて」
食べ物の店を案内したり、変装小物を付けて楽しんでみたり、リオはここの楽しさを知って貰う為に色々な場所に二人で向かう。
デイジーとの買い物も楽しいが、彼は大人すぎて、はしゃぐリオを見守る事しか無い。
それに対して、ジークはリオの期待する反応を見せてくれる。
「わぁ、本当だ!とっても美味しいんですね」
「えっ、僕がですか?に、似合いませんよ。わっ」
等身大で一緒にはしゃいでくれるジークは、年の近い友人の少ないリオにとって、貴重な存在だった。
ジークとの市場散策は時間を忘れるほどに笑いあった。
気が付くと日の光が傾きだしていて、市場の賑わいも暖かい日中に比べると、人通りも落ち着いてきたようだった。
「本当に、戻らなくて良いんですか?僕なら、大丈夫ですよ」
「だ、大丈夫だよ!デイジーが悪いんだから。僕はデイジーが謝るまで帰らないんだ」
暗くなってくると、嫌でも楽しい時間から現実へと引き戻される。
気遣う言葉が返ってくれば、ついつい強がったリオだったが、内心これからどうするかなど、一切思いつかなかった。
ジークはそれを察してしまったのだろうか、困ったような笑みがこぼれる。
「デイジーさんは、悪くないと思います。リオ君が僕を気遣ってくれるのは、とても嬉しいけれど……、君は帰るべきですよ」
「そんなっ……だって!」
「やっぱり、僕のせいでリオ君が家に戻れなくなるのは、嫌なんです」
何だかここまで言われてしまうと、リオの方が我儘を言っている様な気がしてくる。
そんな時、いきなりリオより少し大きな手が優しく包み込むようにリオの手に重ねてくる。
驚いたようにジークを見つめると、エメラルドグリーンの瞳がリオを見つめ返していた。
一瞬、息が止まりそうな程の沈黙が流れる。
何故だか頬がみるみる熱くなっていくのを感じ、リオは思わずぎこちなく目を逸らした。