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藍の果て
第7章 疑惑
リビングに暫しの沈黙が流れた後に、不機嫌そうな舌打ちをこぼしたシルヴァ。
「っ、デイジー。ちょっと来い」
しかし、意外にも横暴な口ぶりは行き場を失ったように、デイジーを呼びつけて、その場を実に呆気なく立ち去っていく。
呼び出しを受けたデイジーは、リオを一瞥するも、特に何の意志疎通もなくシルヴァの背中について行く。
残されたリオは自分自身の掌を静かに見つめた。
「リオ君、大丈夫ですか?」
「え?あ、うん、大丈夫」
自分を庇ったからと責任でも感じたのか、ジークは少し泣きそうな声色でリオに駆け寄ってくる。
掌が少し熱い。
痺れていて、人の頬を思い切り叩いてしまった感触が残っている。
ごめんなさい、なんて謝るジークを半ば苦笑いで制しながら、リオは横暴男の事を考えていた。
「冷やしたほうが良いんじゃ?」
「っるせ。ガキの力で殴られたぐれぇ、たかが知れてる」
リビングを後にしたデイジーが、赤い痕を付けたシルヴァに忠告しながらも、微かにその肩を震わせている。
出会った当時から変わっていない笑い方にシルヴァは更に苛立ちを増す。
頬が熱を持って痺れている。
今まで殆ど全ての事が、思い通りに動いてきた。
それを、あんな子供に頬を張られた事で少なからず少し動揺している。
「奴隷一匹に肩入れするなんて、理解出来ねぇ」
「あいつは、奴隷なんて制度も知らない場所で育ってる。あんたとジークなら……」
「間違いなく奴隷のガキを庇う、か」
何も告げてこないデイジーは、恐らくその状況を肯定している。
別に驚きはしない。あの子供にとっては、自分が此処に居る存在の中で一番厄介であるに違いは無い。
理解はしている。ただ少し頬の痺れが引かないだけだと、シルヴァは自分自身に言い聞かせた。
「……そろそろ、目的を話す気には、ならねぇのか?」
「目的?」
小首を傾げるデイジーの仕草は核心から、はぐらかそうとしている様に見える。
時間がそれなりに経過した。ただ咎めるだけの熱も冷めきったシルヴァは、更に本題を突こうと冷静な口調を崩さず告げる。
「お前が、王を殺しバルトから脱走した本当の理由だ」