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藍の果て
第8章 交渉
リビングに向かうと既に全員が集結していた。


一斉に視線を浴びたシルヴァは、一瞬身構えたもののソファの奥に座る客人には見覚えがあった。
客人もまたシルヴァを見つけては、勢いよく立ちあがって駆け寄ってくる。

「シルヴァ様っ」


「うおっ!??」


いきなり抱き締められバランスを崩しそうになったが、何とか踏みとどまって視線を落とせば、部下である女だった。
シルヴァに従順だが、その為に周囲が読めなくなることも多い女。
暑苦しそうに押し返しながら、女の名前を呼ぶと顔を上げて何故か恍惚とした表情を浮かべている。


「サラ!何してんだ!こんな所で」


「あぁんっ。シルヴァ様に会いに来たの。ずっと名前を呼ばれていなくて、疼いて仕方なかったわ」


身をよじる様にしながら瞳を潤ませて訴えてくるサラという女。名前を呼んだだけで裏返る様な声を出す目の前の女には、本気で変態の気があるのではないかと思ってしまう。
しかも、他の連中の視線を浴びせかけられながらの、サラとのやりとりは、最早公開処刑の様なものだ。
無理矢理に押し退けながらも、サラが此処に来た理由は何となく察していた。




「ふざけんなっ。妙な言い回しはやめろ!」



「酷いわ。でも、もっと叱られたいかもっ!」


などと言いながらも、サラの口調は急に切り替わる様に淡々としたものと変わっていく。
変態女から、バルトのスパイとしての顔へと切り替わる姿は、此方も突然すぎて調子を狂わす程だ。


「シルヴァ様、時間が無いわ。バルトの諜報員から連絡が入ったの。王の不在に、民衆が気づき始めてる。
貴方が不在のままバレるのは危険よ。……そろそろ、此処を……」



「あぁ。まぁ、そんなとこだと思ってた。ちょっと待ってろ。こっちの用件を片付けたら、戻る……」


シルヴァから、押し退けられた後に案外あっさりと離れたサラは腕組みをしながら小さく頷く。
小さくため息をついた後に先程から、ソファーに腰掛けている子供へと視線を向けた。


「おい、ガキ」


「……、ガキじゃないってば!……何?」


既に呼ばれ慣れしてしまった自分に嫌気がさしながらも、リオはどこか面倒そうに用件を問い返す。
僅かに目を細めたシルヴァだったが、睨むようにリオの事を見据えている。
最も横暴な一言を何の前振りもなく告げた。

「俺とバルトへ来い」


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