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藍の果て
第8章 交渉
「何で僕がっ!行くわけ無い!」
唐突な命令口調に憤慨したリオは立ち上がって、残像でも残りそうなほどに首を振る。
「言っとくが、テメェに断る権限は無ぇ。まぁ、どうしても行かねぇってんなら……そこの奴隷を連れ帰るだけだ」
「え……」
凍り付く様にジークの肩が強張るのが見えた。
しかし、リオを気遣っているのか彼女を一瞥するも、結局何も言えず俯いてしまう。
小さな拳を握りしめて、半ば強制連行とも取れる交渉手段に唇を噛む。
「卑怯だ!ジークは関係ないよ、僕が行くか行かないかだろっ」
「こいつは言わばバルトの所有物だ。卑怯と言われる筋合いはねぇ。テメェらに選択権を委ねてやってるだけ、善意ってもんだぜ」
選択権……。善意?
脅しの様な不利な状況で、リオに選ぶ権限なんて無い。
自分が行くか、せっかく助けたジークをまた売ってしまうか、それだけだ。
「リオ君、僕が……」
漸く顔を上げたジークが何か切り出そうと口を開くのを、傍に居た彼より小さな掌が制止させていた。
不安そうに揺れるエメラルドグリーンの瞳を見つめて、変わらず柔らかく微笑んで。
「ジークは、行かせない。せっかく、ここに居場所を見つけたんだ」
「リオっ。そんな……、シルヴァさん、ちょっと待って」
リオの続かれる言葉を予期したのか、ユリアの制止させるような声で遮られようとしたが、既に交渉の蚊帳の外の彼女の言葉を、シルヴァは聞く耳を持つ様子は無い。
ただじっと、次がれる結論を待っている。
「僕が行けば、交渉は成立するんだよね?」
「あぁ」
短い返事を受け取ると、リオは三人の顔色を見つめた。
心配そうに此方を伺っているジークに、何かを言いたそうに何度か唇を開くも何も告げることが出来ず目を伏せるユリア。
そして、ただこの状況を静かに見つめているデイジー。
あの時、市場でデイジーに啖呵を切ったのは自分自身だった。
ジークを助けてあげてほしいと。
勿論、その言葉に嘘は無い。きっとデイジーは、こういう状況も予測した上で、ジークを助ける事を考えろと忠告したのかもしれない。
……誰かを護るためには、無傷ではいられない事。
再び拳を握りしめたリオの瞳に、もう迷いなどは映っていなかった。
「分かった。僕が……バルトに行くよ」