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藍の果て
第9章 二部 バルト

2217年 バルト

「シルヴァ様、そろそろお決めになってください」

最近はシルヴァの世話係の小言が更に増していっている気がする。
お前は俺の何なんだ、と言いたいが、寸前の所で堪えてやっているつもりだ。
ああ、また始まったと内心で舌打ちをしながら殆ど適当に聞き逃す。


「またその話かよ……」


「またとは何です、またとは!大体貴方は五年前に謎の失踪をした挙句、お気に入りの女性を連れ帰ってくるかと思えば……

何とも貧相なパルバナの子供一人。それ以来、あっちへフラフラ、こっちへヒラヒラ……そろそろ正妻を作って身を固めるというご意志は無いのですか!

先代の王は、早くに王妃様と仲睦まじくしておられました!それを貴方ときたら……!」



「……あぁ。分かってる」



「分かっておられるなら、そろそろ後継者の事も考えて身を固めてください!」



お節介な世話係が、その数日後に本当にお節介な縁談を持ち掛けてきたのが、事の発端だった。
どこぞの令嬢だかは知らない。適当に縁談を済ませて、契約を取り付けようとしたのは、お小言係りの口を一生黙らせてやる程度のものだった。



「宜しくお願いします、シルヴァ様」



見るからに清楚という言葉が似合う女で、シルヴァと一向に目を合わせようともせずに、緊張からなのか伏せたまま。
長い睫毛が何度か震えて、色の白い肌が微かに熱をもって色づいている。
こういう女らしい女、というのが恐らくは民衆への好感も持ちやすいという事だろうか。
シルヴァにとってもそれは好都合だった。



大人しそうな女の方が何かと今後、自分の行動範囲を咎められる事も無い。
そして、自分もまた、この女の行動範囲を咎めるつもりも無い。
利用という言葉として、これ程に同盟を組みやすい女はバルトでは、そうは居ないだろう。



だからこそ、関係を進めた。その結果……今に至って居る。
それなのに、何故……あんな夢を見たのか。













「お前は……良かったのか?」


「え?」


女の頬がみるみる上気していくのを見て、この質問がどこかの変態親父の様になってしまっている事に気づき、訂正する。

「いや、変な意味じゃねぇ。この……婚姻の事だ」


「あ」

自分の勘違いを察して、再び彼女は柔らかく微笑む。



「えぇ。私は、幸せです」
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