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藍の果て
第9章 二部 バルト
「っ!?うわぁあっ!!」
自分自身への歯止めである様に上半身を起こす。
日の光が部屋へと差し込んで、鳥達の鳴き声が窓越しに聞こえて、どうやら既に朝になっていたらしいと冷静な判断力が戻ってくる。
横目で隣を見ると、一定の寝息をたてながら一糸纏わぬ女が一人眠っている。
名前は何と言っただろうか?
バルトの中でも有能な家柄の一人娘だと言っていた。
女らしく恥じらいながら、自分を求めて来た昨夜の情事を思い返し、更に気が重くなっていく。
寝覚めとしては、最悪だった。
目の前に眠る女とは違う……、まだ触れても無い感触すら生々しいあの夢の事を思い出す。
夢……。あぁ、そうだ、あれは夢。
「ん……、シルヴァ……様?」
隣にあるはずの温もりが無い事に気づいたのか、掠れた甘ったるい声が自分の事を呼ぶのに気づいて、視線をやる。
心配そうな視線を向けて、布団に包まれながらも漸く女も身体を起こした。
「大丈夫、ですか?」
「あ?」
「いえ、その……、少しお顔の色が、優れない様に見えましたから」
自分の視線や反応一つで、未だ慣れない様に声を震わせながらも、気遣われている事に気づいて、更に昨晩の後悔に苛まれる。
こんな事ならば、どこかで適当な娼婦を買ったほうが、まだマシだった。
「別に、何でも無ぇよ。どうだって良いだろ」
「あ……、申し訳ありません……私……」
怯えたように震える女の肩。俯いた表情は影を作り伺い知ることは出来ないが、大凡の予測はつく。
ここで女に恐怖心を与えるのは本意では無いし、今後の事を考えれば面倒にもなり兼ねない。
「別にお前が謝る事でもねぇだろ。……それより、痛く、ねぇのか?」
「え?」
意外そうに顔を上げた女は、安堵の色を見せて微笑む。
何がそんなに嬉しいのか、シルヴァにとっては到底理解できないが、女は幸せそうに表情が解れたまま頷いた。
「大丈夫です。あの……ありがとうございます。私……嬉しかったです」
「は?」
「シルヴァ様に……受け入れて、貰えて」
女は微笑みに、何も返すことが出来なかった。
別に女を受け入れた訳じゃない。自分が受け入れたのは、ここの<掟>に過ぎないのだから。