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藍の果て
第9章 二部 バルト
「ところで、ザラスの方はどうなの?まだ、何のアクションも無し?」
ザラス。
DEADENDの都市の一つだ。バルト・パルバナ・ザラス。ここでは三大都市の一つとされている大きな都市。
バルトやパルバナと違い、都市自体の情報を一切与えない独立した文化の領域。
砂漠に面した高い壁に囲まれて身を護って居るザラスの土地を、バルトが欲しがって長い間気を許せない膠着(コウチャク)状態に陥っている。
いつ戦が始まってもおかしくはない。そんな張り詰めた空気が漂っていて、バルトは現在内乱を起こしている余裕は無い。
婚約者の話題を早々に切り上げて、リオはバルトの現状を問いかけてくる。
「あぁ。最悪のまま平行線を辿ってる状況だな」
正直、現状は芳しくない。自分の住んで来た土地を譲り渡せと言う言い分に、勿論ザラス側もあっさりと引き渡す訳も無いだろう。
このまま行けば、争いは避けては通れない。
「だったら僕も、もっと強くならなきゃ」
「気合い入ってんじゃねぇか」
「まぁね。その為に、僕はここに来たんだ」
大切そうに胸元に手を当てる。
五年前から、リオがずっと身につけているペンダント。
何かの欠片の様な物で、パルバナを出発した時から外した所を見たことが無い。
「それに、約束……したから。生き残るために、強くならなきゃ」
ペンダントにそっと誓うように呟いたリオは、シルヴァも未だ見た事も無い位に柔和(ニュウワ)な微笑みを浮かべている。
そして、それが向けられているのが目の前の自身では無いという事を突き付けられる。
それは既に遠く離れ、連絡すらも途絶えている男に注がれたもの。
五年前からそれは変わらない。そして、シルヴァ自身も納得していたつもりだった。
しかし、ここ最近のふつふつと宿る煮える様な気持ちは何なのだろう。
今まで経験したことも無い胸の内への違和感にシルヴァは掻き毟られるような苦しみを覚えた。
しかし、その苦しさの名前を知らない。
この感情は一体何て名前だろう。
殆ど無意識の内に、シルヴァの腕はリオの長く伸びた髪へと伸びていた。
絹糸の様に細く柔らかい髪質が指を伝うと、驚いた淡いブルーの瞳と目が合い、時間が止まったような沈黙が流れる。