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藍の果て
第10章 任務
鍛錬を終えたリオはシャワールームに居た。
ノヅルからの飛沫を浴びながら、汗を流すと身体が軽くなった感覚がする。
レバーを締め終えると飛沫が止まり、傍にかけてあった布で身体を丁寧に拭っていく。
「シャーロンさん」
リオの名を呼ぶ声が扉越しに聞こえると、慌てて身体を隠す様に布を巻き付けた。
「……はいっ」
「ごめんなさい。こんな所まで来てしまって。私……あの、シルヴァ様の……」
声の主の説明は、そこで一度止まってしまう。
いや、そこまでの説明で理解するのには十分だった。
どうやら、リオを呼んだのは最近渦中の人物である、シルヴァの婚約者。
「どうしました?僕に何か用件が……?」
隠すのは布一枚である今の姿を彼女に晒すわけにはいかない。
なるべく冷静な態度を繕いながら、接するよう心掛けなければ。
「はい。実は、シルヴァ様から言伝を頼まれたんです」
「シルヴァ……。っ、陛下から?」
彼女の面子の為にも、形上絶対的に上の立場である男を敬う呼称に変えた。
ここで下手を打つ訳にはいかない。
「少しお時間頂けますか?湯浴みの後でも構いませんから」
「分かりました。少し待っててください。直ぐに行きますから」
彼女のシルエットが見えなくなると、脱衣所へと上がって晒しを巻き、衣服を身に着ける。
濡れた髪は半乾きであったが、次期王妃に手間取らせる訳にはいかない。
適当に髪を後ろで一つにまとめると、客室へと向かった。
大きなソファーにひっそりと座る彼女の様子から、育ちの良さが伺える。
ただじっとリオを待っていたのか、目が合った瞬間に僅かに口角を上げると会釈を返される。
その上品な雰囲気に圧されて、深々と頭を下げた。
「座ってくださるかしら?」
「え、あ、はい……」
言われるままに腰掛けると、彼女は微笑みを貼り付けたまま、いきなり本題を切り出して来た。
「シルヴァ様からの言伝というのはね、バルトの中心街に行って欲しいらしいの」
「え……。これから、ですか?」
「えぇ。ちょっと待って下さいね。ここ、なんだけど……」
彼女は一枚のメモを胸元から取り出した。
そこには、中心街でも名の知れたバーである。