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藍の果て
第10章 任務
「何だ?俺に分かる事なら……」
「助かるわ。私、ある男を待っているの。両目の赤い男……ロンって言ったかしら?ご存知?」
「あぁ、それなら……」
男が何か言いかけた瞬間に、わざとらしく音を立ててグラスを置かれた。
横やりの予感に、横に視線を向けると男が隣に座ってくる。
先程、好奇の目を向けていた数人の一人だと気づいたが、適当な距離感で微笑みを返しただけで直ぐに正面のバーテンダーの男に視線を戻す。
「お姉さん、一人?こんな時間に一人でお姉さんみたいな綺麗な人が飲んでるのって珍しいよ」
「ええ、一人よ。そう?まぁ、これを飲んだら帰るつもりだけれど」
さり気なく長居するつもりがない事をアピールしながら、先程差し出されたカクテルを口に含んだ。
甘い香りが口に広がって、ジュースの様な飲みやすさもある。
きついアルコールの苦手なリオにとっては、有難い飲み物だ。
「寂しい事言うなぁ。俺も今来たところなんだよ、少し酒に付き合ってよ」
遠慮なく距離を詰めてくる男の足を踏みつけて追い返したい所だが、情報を聞き出していない今、ここで問題を起こすわけにはいかない。
愛想笑いでやり過ごそうとしたが、気を良くしたのか、男は更に距離を縮めてくる。
大きな手がリオの肩を抱き寄せ、身体同士が密着すると酒の匂いが漂い苦手なリオは露骨に眉根を寄せた。
情報を聞き出すにも隣の男が居るのは厄介で、思わず本音と混じりあう溜息が出そうになった所で扉の開く音がする。
足音が此方に向かって来ているのは分かった。
面倒な人間に巻き込まれる、今日は既に引き上げた方が良いと、リオの中にも諦めの色が濃くなったその時。
隣にいた男をやや強引に引き剥がす腕と頭上から降って来た声。
「悪いな。こいつは、俺の連れなんだ。席、譲って貰えるか?」
柔らかなトーンで話す低い声。
見上げると大げさに肩を竦める仕草が目に入り、リオの思考回路は停止する。
リオと同じ様に透き通るような白い肌と、赤も混じっている茶色の髪。
そして、その男の両目は燃えるような目を奪われる真紅の瞳がリオを見つめていた。
見た目は全く違う。似ても似つかないその肌や髪。
それでも、リオの唇は誰かに操られるように、その名前を呼んでいた。
「デイ、ジー……?」