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~花の玉手匣~
第5章 蒼い牙に抱かれて
墨磨りは実に奥深い。
力や速度の微妙な加減、硯の鋒鋩の調子、墨の状態、そして墨を操る人の心の有り様……様々な要素が、じかに墨液や墨色に反映されてしまう。
少しでも塩梅を誤れば墨液が粘ったり、気泡が浮いたり、墨の破片が混ざったりしてしまうのだ。
一方、熟練者の手にかかれば、何ひとつ雑じり気のない、なめらかで光沢のある墨液に仕上がる。
ぼく自身、最初の頃に磨った液は書写の練習用にさえ使えないような酷い出来で、とうてい陛下の手元に献上できるような代物ではなかった。
ようやく、ぼくが磨った墨液を陛下に使ってもらえるようになったのは、ここ数ヶ月のことだ。