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~花の玉手匣~
第5章 蒼い牙に抱かれて
陛下の執務は基本的には静謐のうちに黙々と進められる。
紙擦れの音や息遣いまでがやけに冴えて聞こえるほどピリリとした空気に、ぼくの気も引き締まる。
けれど時折、そんな静寂は来訪者によって打ち破られる。
もっとも来るのはたいてい――ぼくもすっかり顔馴染みになった――宰相や各省の長官、大監や女官長級のお歴々で、追加の上奏や報告の提出が目的だから長居はしない。
内謁は速やかに終わり、静けさが再び部屋を支配する。
ところがその日、目通りを許され執務室に現れたのはぼくの全く見知らぬ人物だった。