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~花の玉手匣~
第5章 蒼い牙に抱かれて
「なんだこれは!」
定位置の作業机に戻ろうとしていたぼくの背に、陛下の不機嫌な声が飛んできた。
ぼくは反射的に振り向いた。
陛下の眉間に深い縦皺が刻まれている。
ぼくは何がどうしたのかまったく分からず目を泳がせた。
「これは、なんだ?」
陛下はゆっくり繰り返し、ぼくが今しがた献上した硯を指差した。
ぼくは身を伸ばし硯の海を覗きこんだ。そのとたん、血の気が引いた。
よりによって墨液には小さな泡がいくつも立ち、あろうことか細かい墨片まで2つも浮いていた。
ぼくの心の状態が、そっくりそのまま現れてしまった墨液だった。