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~花の玉手匣~
第5章 蒼い牙に抱かれて
そのとき、口を挟んだのは翔龍だった。
「わたくしが一つお持ちいたしましょう」
震えるぼくの左手から、墨液の入った硯を受け取ろうと手を差し伸べる。
余裕のある微笑。
ぼくより頭みっつぶんも高く、大人びた顔は綺麗で、指が長くて、優雅で……。
――きっとぼくなんかより、ずっと上手に陛下を悦ばせてきたんだろう、あの官能的な指先で。
勝てるものが何もない気がして、ぼくは劣等感に窒息しそうだった。
だからぼくは最後のあがきで自尊心を守るため、
「けっこうです!」
強く叫んで、翔龍の手をはねのけていた。
その瞬間、安定が崩れ、ぼくの左手から硯が落ちた。
真っ黒な液体をぶちまけながら――