この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
~花の玉手匣~
第5章 蒼い牙に抱かれて
「翔龍、そなたも退がれ。明日、都を離れる前に再度参内し、必ず顔を見せろよ」
「仰せの通りに。この度の陛下の格別のご温情、終生忘れはいたしませぬ」
翔龍は立ち上がり、優雅な物腰で一揖した。
戸口へ向かう。
すれ違いざま軽く会釈を送られた。
昼間、ぼくが墨汁をぶっかけたことは少しも気にしていないようだ。
その寛容さに、ぼくの劣等感はますます募る。それでなくとも涙まみれのボロ顔で盥を持たされている、惨めな有り様なのだ。
ぼくはプイッと目をそらした。