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~花の玉手匣~
第2章 星降る夜のわがまま姫
「ねえ、呂栢。あの光っているのは何?」
「あれは旅籠の看板です」
「じゃあ、あれは?」
「あれは火消し用の水甕です」
「あの子たちは喧嘩してるの?」
「いいえ、押し相撲に興じているのです」
大路を進みながら、美紅姫は質問ばかりしていた。
今までも、母親の行啓に付いて後宮の外へ出たことは何度かある。
しかしいずれも行き先は御料地の離宮で、後宮暮らしとたいして代わらない。
そして、その行き帰りに都大路や他所の街路を通過することはあっても美紅姫はいつも輦車の窓から眺めるばかりだった。
手を伸ばせば届く距離で、自分の足で、庶民の世界を味わうのはこれが初めてなのだ。
「あれはあれは? 雲を千切ってきたのかしら!?」
「あれは綿飴でございます。召し上がりますか?」
美紅姫は呂栢に買ってもらった真っ白な綿飴を満面の笑みで頬張った。