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~花の玉手匣~
第5章  蒼い牙に抱かれて

「なぜ泣いている」

陛下は再び尋ねた。

極寒と畏怖で震えるぼくは、うまく口を動かせなかった。それをまた「無礼だ」と内官は憤ったけれど、陛下の眼は穏やかだった。

ぼくは「洗濯が終わりそうになく悔しいのです」と答えた。

腹の中では、ぼくに仕事を押し付けサボっている同僚への苛立ちや不満や悔しさが渦巻いていたが、寒さに震える口のおかげで余計な愚痴を奏上せずに済んだ。

「そうか」

聡明な陛下は、ぼくの短い返答だけですべてを察してくださったようだった(少なくとも、その時のぼくはそう感じた)。その上で、

「しかし、それがおまえの務めなのであろう? であれば、泣かずに最後までやり遂げよ」

口調は淡々としていたが、ぼくの胸には染み入る言葉だった。

ぼくは涙を拭い、陛下の凛々しい背中を見送った。

あとから思えば、この時ぼくはもう恋に落ちていた。



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