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~花の玉手匣~
第5章 蒼い牙に抱かれて
「おまえに名をやろう」
灯りを消した室内で、陛下は言った。
ぼくはその両腕に包まれている。
「今日からおまえは、小龍(シャオロン)だ」
6才で家を出されてからどの奉公先でも、ここ皇城でも名前を呼んでもらったことはなかった。たいてい十把一絡げに「豎子(じゅし)」とか「童兒(どうじ)」と呼ばれるだけで、時には単に「那箇(なこ)」と物扱いで呼ばれた。
親が付けてくれた諱や字は、とうに忘れてしまった。
「シャオ…ロン」
「そうだ、小龍。気に入ったか」
ぼくは陛下の胸に額を押し付け頷いた。泣きたいくらい嬉しかった。
そんなぼくに陛下はさらに一言、秘密めかしてささやいた。
「蒼牙」
それは陛下ご自身の諱だった。
大臣や側近ですら決して口にはできないその高貴な御名を、ぼくは寝所の中で呼ぶことが許された。
こうしてぼくは皇帝陛下の愛妾となった。