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背後偏愛サロン
第1章 とまどい
1.とまどい


(1)

   <貴女の後ろ姿、貸していただけませんか?>

   女性の後ろ姿というのは、それだけで蠱惑的。
   そこに特別なシチュエーションはいりません。
   いつもの服装で、いつも通りに街ゆく、女性の後ろ姿。
   それこそが我々の欲するすべてなのです。
   セクシーな衣装も抜群のスタイルも、むしろ邪魔なのです。
   顔さえも――。

   顔が見えないからこそ、
   狂おしいまでに欲情した表情を妄想し、
   いつもの服装だからこそ、
   手が届きそうな生々しい肉感を妄想する。
   そんな魅力的でエロティックな女性像が、
   我々の脳内に無限に、無限に、広がっていくのです。

   それらの女性とは――
   貴女のことです。

   誤解して欲しくないことがあります。

   顔がいらないというのは、
   貴女の容貌を否定するものではありません。
   我々はそれを求めていないだけであり、
   貴女にとってもその方が安心でしょう。

   もう一度、言います。

   普段の外出着で街を歩く貴女の後ろ姿は、
   それだけで蠱惑的なのです。

   当サロンはそんな貴女の後ろ姿を、
   こよなく愛する紳士の集まりです。
   そして、我々の想いをご理解いただける
   貴女のご協力によって成り立っています。

   いつもの服装で、
   顔を隠し、
   後ろ姿を見せていただくだけで良いのです。
   飾られた人形のように――。

   貴女の後ろ姿、貸していただけませんか?
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