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背後偏愛サロン
第5章 貢ぎ
 はっきり見えるのは、詩織の情欲をそのまま投影した愛海の顔と脚だけだ。
 はっきり感じるのは、詩織の粘膜を貪るオスの粘膜だけだ。
 それ以外は――どうでもいい。
 こんなにも、何人もの見ず知らずのオスを、発情させているのだから。

 詩織は、自分の目に涙がにじみ出てきていることに気づいた。
 ――やだ……
 ――泣いちゃだめ……
 涙はみるみるあふれてきて、詩織の頬を流れ落ちる。
 そして止めどなく、湧き出てくる。

 ――泣いたら……
 ――余計ぞくぞくしちゃう……から……
 ――こんなになっちゃうなんて……
 ――どれくらいぶり、かな……

 詩織はぼやけていく視界の中で、再び全身を跳ねさせる愛海の姿をかろうじて捉えた。

    ※  ※  ※

 ようやく、東京でも桜が咲き始めた。
 ある小さなビルの前に、その日から『個展“榊原回光写真展〜Ephemeral Doll”』というイーゼルに乗せられた看板が立った。

 扉をくぐった先にある小さな部屋には、十数枚の後ろ向きの人形の写真が展示されていた。
 どれも一枚につき一体の人形が写っているが、その中に一枚だけ二体の人形を一緒に撮ったものがあった。

 その二つの人形は、顔が見えないよう首だけを曲げ、向かい合わせで身体をよじらせるようにして抱き合っていた。


<終>
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