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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔




「夏休み前だって、杏璃の態度が気に食わなかったんだ。取引きを受けたなら、僕をだーい好きな彼女を演じてよ。杏璃がそうやって硬い顔とかしてるから、漬け込んでくる女がいたんだよ。ベタベタ触られる僕の気持ち考えてくんない?」


 あんな取引き、受けたくて受けたんじゃない。脅されて仕方なくなのに。


「それで杏璃と仲良いとこを見せつけるために、来たくもないキャンプに来たってのに、これじゃあ逆効果じゃんか」


 呆れかえる声が耳朶を打ち、杏璃の肩が震える。


「電話やメールで注意してもよかったんだけど、杏璃は馬鹿だから意図を汲めないんじゃないかって、こうして連れ出したの。まぁ、輪を抜けたかったってのもあるし、僕一人だと付いてきちゃう女がいるかもだし。一石二鳥ってやつ?」


 噛み締める奥歯が軋む。


 抑えて抑えて、抑え込んで。凪いだ心を保ってきたが、もう限界だ。


 膨らみ切った風船が、細い針の一突きで勢いよく弾けるように、杏璃の溜め込んできた感情が暴発した。


「……最低だ、最低だと思ってきたけど、まさかこんなにも卑劣な男だったなんて」


 感情が暴発したわりに、杏璃の口からは低くて静かな声が辺りに届いていた。





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