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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔



「だから何? 僕が最低なら杏璃も一緒だって――」


「一緒にしないで!」


 だが今度こそ大声が口から飛び出す。


 それに驚いたかどうかは知らないが、虫たちが鳴くのを一斉に止め、杏璃の荒い息づかいだけが響く。


「一緒に……しないでよ」


 声が震える。喉の奥からせり上がる苦しさ。目頭が熱くなる。


「私は! 私は……好きだったよ、司のこと」


 司の本性を知ってから、怒りに任せて悲しみを追いやった日もあった。復讐にかまけることで、痛みを忘れ去ろうとしてきた。


 だがどうあっても、心に刻まれた傷は失われてくれないのだ。


 初恋だった。初恋だったのに……彼はいとも容易くまっさらな恋心を穢していく。


「あんたは私を利用してただけかもだけど、私はちゃんと好きだった。初デートの前日は嬉しくて眠れなかった。初めてキスした日の夕焼けは、今だって瞼の裏に焼き付いてる。手を繋いだときはいっつも緊張して心臓が破裂しそうだった。笑いかけてくれるだけでドキドキした。名前を呼ばれると羽が生えた心地になった。……そういう私の気持ちは考えてくれないの?」


 杏璃の頬に流れる大粒の涙が、月と星が支配する空の下で煌めいた。





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