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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔




「だけど昌子は知ってたんだよね。いつか自分は取り残されるって」


 三十近くも年の離れた義父。十年先か、二十年先か――はたまた明日かもしれない永遠の別れ。


 夫を喪い、義父にも先立たれたら、今度こそ寄る辺をなくしてしまう。


 それを恐れた昌子は義父に心中を迫った。義父も昌子を独りにするのを不憫に思い、受け入れる形をとった。


 直接的な表現はなかったものの、二人は手を握り合って最期を迎えたのだ。


「穂奈美のも昌子のも、それから他の本も。全部……ぜーんぶ、愛があった。物語の世界で生きている人たちの息遣い、体温、幸福や苦悩、悲しみも。それから彼らの人生を垣間見た私たち読者へ向けた作者の想いも」


 自分は二度、三度と読んできたのに、どうしてそこに目がいかなかったのだろう。


 単に性愛描写を学ぶためだけに読んでいたからと言い訳するにはおこがましすぎる。だったらなぜかと自問すると、先に自身が断じた理由からだった。


「バカだよね、私。……うん、バカだった。二、三ページ書いただけの私が言うのも何だけどさ、消耗半端なかったの。なら本を一冊書く人ってさ、命削る思いで書いてるよね、きっと。それがどんな内容だったとしても」


 冒険譚、恋愛小説、ファンタジー、そして官能小説など。


 物語には様々な種類があるが、どれをとっても中途半端な気持ちで書き綴っている作者などいないだろう。







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