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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔
――ともかく春馬は杏璃の愚行を許してくれたらしい。杏璃は胸を撫で下ろし、執筆に真正面から向き合うための心構えを訊ねる。
「そうだな……。ひとまず……」
春馬は言いながら、椅子からのっそりと立ち上がる。
「ひとまず?」
その彼を目で追い、杏璃は鸚鵡〈オウム〉返しした。
すると春馬はもぞもぞとベッドへと潜り込む。そして一言。
「寝かせろ」
言うや否や、眼鏡を外して布団を頭まで被ってしまうではないか。
「なんでー!? ねぇ、春馬! 春馬ってばー!」
春馬の身体を揺する杏璃の頭上に春馬の腕が伸びてきた。そのまま頭部をガッチリと掴まれる。
「煩い! お前が来たの、何時だと思ってるんだ!? 七時半だぞ? いくらなんでも早すぎるだろーが! 人の安眠を邪魔しやがって」
「いたっ……いたたたた! 七時半なんて立派な朝じゃん! おばさんたちだってもう仕事行ってる時間じゃん! もう八時だし……って痛いって!」
「夏休みくらいゆっくり寝かせろ!」
騒がしい室内で、痛みと春馬の睡眠欲に根負けしたのは杏璃だった。
再度協力を得られる約束を取り付けるのだけは忘れずすごすごと帰った杏璃は、春馬と仲直りが出来た安堵にくわえ、キャンプの疲れと不眠で一気に眠気が襲い、泥のような眠りへと沈んだ。
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