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妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い




「……由奈ちゃん、僕に気があるの?」


 ――はい? と思わず聞き返してしまいそうだったのを、寸前で飲み込んだ。その直後に襲った脱力感。


 訂正しよう。彼は馬鹿がつく自信家だった。


「もしそうなら悪いけど、僕にはその気はないから」


 好きでもなく告白もしていない相手からフラれている。なんだろう、この虚しさは。


「あ、うん。全然違うから。友達の彼氏を好きになったりとかしないから」


 そもそも現実の男に興味はないし、友達の彼氏でもないのだけれど。棒読みでそう言うしかない現状に、白目を剥きそうだ。


「いいんだよ、隠さなくて。杏璃には黙っておくね」


 否定しているのに司の自信過剰は加速する。


「高校の時にもあったんだよ。まず杏璃に近付いて、僕との距離を縮めようって子が。それも一人二人じゃないんだよねー。ほんと困っちゃうよ」


 司は冷や汗で張り付いていた前髪を撫で、さらりと揺らす。否定しても否定しても、つらつらと語られる過去の栄光に、由奈は幾度となく彼の頬を全力ではたきたくなったことか。


 杏璃たちが数十分後に戻ってきて、遊園地から出る頃には、由奈もまた精神的な疲労でいち早くベッドに倒れ込みたい気分になっていたのだった。








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