この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
妄想シンドローム
第6章 水面下の戦い
「由奈ちゃん。一体どういうつもり? 杏璃を彼と行かせるなんて」
苛立ちを必死に抑える声が降り注ぐ。当然予想された問いだった。
「どうもこうもー、杏璃ちゃんが乗りたいって言うから?」
「だったら僕と行かせてくれればよかったでしょ? ほんの数十分、彼と待っててくれてもいいのに」
司と杏璃が本当に交際しているのであれば、もちろんそうしていた。付き合いは短いが、初めて心を許せる友人には幸せになってもらいたい。
けれど司といると杏璃は苦しむだけ。知っているからどれだけ非難されようとも、司からの接触を阻んできたのだ。
「ごめんねぇ? 私けっこう人見知りで」
「本当にそれだけ? まさかとは思うけど――」
細めた目を一層細くして、司は由奈を見据える。
彼は決して馬鹿ではない。ここまで妨害してこれば、由奈が杏璃によって事情を打ち明けられていると察するだろう。そして由奈が認めれば否応なく杏璃の悪い噂を流すはず。
けれど杏璃を独りにはさせはしない。彼女が恐れている事態を招きはしないとそっと誓いを立て、動揺を見せずに続く言葉を待っていたら。
.