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妄想シンドローム
第7章 意外な正体
思い出して口許をふよふよと緩ませると、我慢ならなくなった春馬に頭を鷲掴みされる。
「痛い! 割れる!! 裂けるっ!」
「お前、今何を考えてた? ん? 怒らないから言ってみろ」
「もう怒ってんじゃん! ゆーくん、ほんとに痛いっ!! 遼子さん、ヘルプー!」
「ゆーくんって呼ぶな!」
片手はますます力が込められる春馬の手を剥がす抵抗をし、もう一方は遼子に助けてと伸ばす。
その彼女は杏璃たちを眺め、ひとりニヤついていた。
「へぇ……“守ってあげたくなる”容姿ねぇ? ふーん、そっかそっか」
遼子は杏璃と春馬を交互に見遣って、うんうんと首を上下させる。
その様子に春馬が力を緩めた隙に杏璃は逃れ、さっとソファーの端に移動した。
珍妙な納得を繰り返す遼子と、それを不快な面持ちで見据える春馬を、杏璃は痛む頭を擦りつつ首を傾げた。
二人にしか解らない意思疎通をする姉弟に疑問を投げかけたかったが、遼子の夫が帰宅したことで、疑問は空気に溶けていってしまった。
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