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妄想シンドローム
第8章 二人きりの夜
遼子の夫は穏やかな性格で、常に笑顔を絶やさない人だった。
仕事をして疲れているだろうのに、文句ひとつ言わずに杏璃たちのために豪勢な料理を振る舞ってくれて、細やかな気遣いを配ってもくれた。
その彼に遼子がベタ惚れなのが、杏璃にも伝わってきた。
夫をダーリンと呼び、はばかりなく彼に纏わりつく遼子は、これまでの彼女のイメージを崩すもので。
だが嫌な気持ちにはならず、反対に好きな男性に遼子でも可愛くなるのだと自然と笑顔になってしまった。
彼は作家にも官能小説家という職業にもとても理解があり、昼夜や休日なく執筆する遼子に代わり、家事の一切を引き受けてくれるのだとか。
「こんな出来た旦那様、他にはいないわ!」
と断言する遼子に、杏璃は憧憬を抱く。自分もいつか素晴らしいパートナーと出逢えるといいなと思ってしまう。
杏璃が仲のいい夫婦を羨んで眺めている横で、春馬が「こんな不出来な姉をもらってくれて、心底感謝してます」と水を差し、姉弟の小さな諍いが発生した以外は、和やかに夜が更けていき。
ようやく小説の話になるというところで、遼子の夫は気を遣って先に就寝すると言い置いて、寝室へ消えていった。
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