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妄想シンドローム
第8章 二人きりの夜
日付が変わる頃まで遼子が語る執筆の心得や押さえるべき要点を春馬と聞き、杏璃は客間へ通された。客間は一つしかないため、春馬はソファーで寝ろとの通達を遼子から受けていた。
敷いてある布団に横になっても、長距離の移動と慣れない環境にいたことで身体は疲れているはずなのに、目が冴えてしまいなかなか寝付けない。
簡素で機能的な室内で、そっと瞼を落として遼子の言葉一つ一つを頭に浮かべる。
キャラクターについて春馬からも以前アドバイスを受けた。だがその道の第一線で活躍する人の言葉は、また違った説得力があった。人形ではなく、生きている人を書けと。
展開も直線的にならず、描きたい部分を点と捉え、回り道をしてもいいから豊かに表現をしてそこへ到達しろと。
もちろんページ数の規定がある以上、余分な描写はこれでもかというくらい削ることも必要。けれど規定を意識し過ぎて、急な展開になり読者を置いてけぼりにしてもいけないと。
様々なアドバイスはいっぺんに処理しきれず思考から溢れ、人知れずに息をつく。
そしてそれらのアドバイスより最も悩ませるのは、遼子が締めくくりに言った言葉。
『書く理由は何だっていいと言ったけど、誰のためでもなく自分のために書いて。そうしたらきっと杏璃ちゃんも書くことの虜になるはずだから』と。
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