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妄想シンドローム
第8章 二人きりの夜
杏璃の沈んだ表情を察し、遼子はカラリと笑う。
「いいのよぉ、書く理由は何だって! あたしだって司法試験に落ちた鬱憤晴らしよ? 当時はプロになろうなんて思ってなかったわけだし」
「不純な動機でも、怒らないんですか?」
「怒らないわよ。それにこいつにそそのかされて書き始めたって言うじゃない」
じっと聞き入っていた春馬を遼子は顎で示す。
それに対して春馬は「人聞きの悪いこと言うな」と返した。
「それしか方法がなかったから提案したまでだ。自分の姉がきっかけを作った奴だと知っていたら、こんな提案はしなかった」
「あたしだって教えてもらえてたら、もっと効果的な方法で協力してたわよ」
昔の仲間というくだりを思い出し、杏璃は「そんなそんな! 相談乗ってもらえただけで充分!」と遼子の不穏な考えを押し退ける。
すると遼子は大口で笑う。
「違う、違う! 元カレ、あたしのファンなんでしょ? だから生原稿をちらつかせて服従させるとかさぁ」
「えっ!? 生原稿で!?」
「この前出した新作の生原稿にサインでも入れて、欲しいなら言うこと聞けとかね」
酔っている勢いの提案と解っていても、甘い誘いに飛びつきたくなる。
遼子――いや、藤堂志保の生原稿なら、司も欲しがるに決まっているからだ。
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