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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉
「――お前はこの本を一通り読んでおけよ」
「……あい」
「写真集も目を通しておくんだぞ」
「……あい」
「今後のことは調べ物が終わり次第話す」
「……あい」
すっかり意気消沈して廃人寸前の杏璃は、春馬の命令に頷くしかなかった。
だが玄関まで見送り春馬が扉を開ける寸前に、一瞬躊躇したもののやはり伝えておくべきと口を開く。
「春馬、あの……」
無言で振り返る彼へと視線を向けないまま、杏璃は囁くように言う。
「今日はありがと」
大好きだった司から酷い仕打ちを受けて、一人だったら一晩中泣き明かしても足りないくらいだった。
春馬はけして杏璃を甘やかしてはくれない。キツイことを平気で言う。しかしそういう人間は最も信頼に足る。
春馬には本当の理由を告げなかったが、だからこそ辛いときに呼び出したのが彼だったのだ。
彼から礼の返答はなかった。だが笑う気配を残して去っていった。
杏璃にはそれで充分伝わっていた。
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