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妄想シンドローム
第1章 彼女が○○を目指した理由〈ワケ〉





「何でも何も、動物に近付くとき、鼻歌歌ってたぞ」


「心の声漏れてたー!!」


 杏璃は身体を丸めてクッションに顔を埋める。穴がないのが残念だ。あれば全力で入っていたのに。


「まだまだあるぞ? 大きな雲を見るとバル……」


「もうやめてぇ! 擦り切れた精神が高速で削られるからぁ!」


 司とのアレコレですでに風前の灯火な杏璃の精神が、春馬の精神攻撃で更なる打撃を受け続ける。


 いいじゃないか、夢見たって。動物とお喋りが出来るかもとか、天空に浮かぶ大都市があるかもとか。


 子供の可愛らしい行動だと胸に収めるのが、人として最低限の気遣いじゃないのか。


「やめるのはいいとして……妄想が得意だと認めるよな?」


 最低限も守れないのに、脅しをかける。どこまで春馬という男は鬼畜なのだ。


 杏璃としては認めたくないのはやまやまだ。しかし否定しようものなら、僅かに残った精神の塊さえも木っ端にまるまで追撃の手を春馬は休めないだろう。


「うう……」


 否定か肯定か。葛藤する杏璃の口から洩れる声がクッションに吸い込まれる。


「ああ、また思い出した。あれは……」


「解った! 解ったから! 認めます! 認めるから許してくださーい!」


 葛藤も虚しく追撃の気配に、杏璃の悲鳴が上がった。






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