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妄想シンドローム
第3章 類はなんとやら
春馬は咳払いを一つする。
「いいか。もし一人称を選ぶなら、これだけはやるな」
「は、はい。何をでしょう?」
「“私は樹月杏璃、十九歳。この春から大学に通う女子大生!”なんて馬鹿丸出しの書き出しだけはやめろ! 目も当てられん!」
「うぐっ」
ぼんやりとだが杏璃が考えていた書き出しそのものを言われ、ショックを受ける。
「それのどこがいけないの!? 人物設定がわかり易くていいじゃない!」
「お前は普段から心の中で自己紹介をしてるのか!? 誰に向けてだ!? あぁ? 脳内に彼氏でも飼ってるのか?」
「飼ってない! 流石の私でもそこまで痛々しくありません!」
「だろ? 一人称の地の文は、視点の人物の心の声だ。俺はネット小説も時々読むが、この間違いをやらかす初心者がまぁ多いこと多いこと……。書き出しでそんなのがあったら、はっきり言って俺は読む気が失せる。誰に向けて紹介してんだよ、ってな」
「そんなんで読むのやめるのって、心狭くない? 続きの展開はめちゃくちゃ面白いかもしれないじゃない。実は物語は壮大かもしれないじゃない」
「人物の名前すらを自己紹介という形で手抜きする小説に、展開の面白さや壮大さを求めろって? 技術がないなら工夫と発想でカバーしようともしてないのに?」
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