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妄想シンドローム
第3章 類はなんとやら



◇◇◇◇


「――よしっと。出だしはこんなもんかな?」


『猫彼女の観察日記』とタイトルに書かれる小説。パソコンに打ち込んだそれを読み返し、杏璃はぐぐっと伸びをした。


 とその時。スマホが震える。


 春馬から今からチェックしに行くとのメールだった。


「うう……。春馬は厳しいからなぁ。来るまでにもっかいチェックしておくか」


 すでに何度か読み返した文章を辿る。


 擬人化モノは物語の題材としてはよくある。ありふれているということは、それだけ需要があるということだ。


 だが杏璃はそんな理由でこの物語を綴ろうと思ったわけではなかった。


 たとえば不倫を題材にしたとしよう。夫がいる身にも拘わらずに違う男に溺れていく女。


 たった一つの恋愛を、それも一途過ぎた想いで貫いてきた杏璃に、不倫する女の心理を描ける自信がなかった。


 またたとえば兄妹や義理の親や子との禁断の関係を題材にするのも同じ理由で、杏璃の中で却下された。


 そうやって一つ、また一つと題材を削除していき、残ったのがこの擬人化モノなのだ。


 猫のルルと擬人化したルル。


 ほのぼのとした日常も、めくるめくような官能も、これならば描けるのではないかと。







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