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溺れる恋は藁をも掴む
第16章 陽だまり
親父への反感から、
ファーストフードのバイトしてたんだけど、
親父が死んでから辞めた。
高校を卒業したら、
家を出たかったんだ。
その資金稼ぎのバイトだった。
家を出たいなんて言える状況じゃなくなったしね。


葬儀の日から、
精神状態が不安定な母親を一人にしておけなかった。
俺より5つ下の弟も居たから、
余計、俺がしっかりしないとという、
プレッシャーも背負った。

ずっと、親父の遺影を見て、
泣いたり、笑ったりを繰り返す母親。
仕事や家事が出来る状態じゃなかった。

『親父も楽になったと思うよ。
飲んで荒れてだらしない姿を、
母さんにずっと見せている事の方が、
ずっと辛かったはずだよ。
だから、元気出そう。
なぁ、母さん』

不憫な母親の背中を見る度、
そう言って、楽にしてやりたかったけど、
親父への罪悪感でその言葉は押し殺した。


そんな重苦しい毎日の中で、
唯一の俺の息抜きが、バッティングセンターでむしゃくしゃした気持ちをバットにぶつける事だった。

かなり優秀な野球少年だった俺は、
どんなボールが飛んできても打ち返していた。


その横で、スーツ姿で空振りばかりをかます、場違いな女が居た。

それが百合。

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