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近づきたい
第9章 雨の日
気づかないふりも出来た…でも、今の私にそんな余裕なかった。

このお店を出るまでは笑っていよう。
カズさんにティラミスとハートの御礼を言う。

よし先輩は笑っているけど、きっと私の作り笑顔に気づいてる…

食事を終えてお店を出る時、空がさっきと変わって暗くなっていた。また夕立があるのかな?
雨の匂いもする…私の心の中と一緒で雨が降りそう。

車に乗り込んで、よし先輩が私の顔を覗き込む。

「瑞穂、これからオレの家に行こうと思うけど…いい?」

「……うん。」

頷くように答えた私を乗せて、よし先輩の家に車は走り出す。

車の中で私とよし先輩は無言だった。私は何から話したらいいかわからなかった。

窓の外を見ると、雨粒がガラスに当たるようになっていた。

「雨、降ってきましたね…」

「ああ。夏は夕立が多いからね…」

そんな話をしているうちに雨は強くなる。スコールのように強く降る雨が屋根を叩く…

私の好きな曲が頭の中でリピートする。小声で口ずさむと、よし先輩が驚いた顔をした。

「瑞穂が歌ってるの、初めて聞いたな。誰の曲?」

「私の好きな歌手なんだけど…義朗さん知ってるかな?」

「知らないとショックだから、聞くのやめておくかな。」

片方の口をちょっと上げて笑ったよし先輩が可愛かった。でも…

「10歳も違うと知らない歌手多いからさ。」

私が知らないかな?と思ったのは、そんなにメジャーな歌手じゃないからなのに…

さっき見たよし先輩の笑顔が今は違う人に思えた。
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