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大きな瞳に映るのは
第12章 男と女
遙は進藤の様子を見送るかのように
満面の笑みで右手を振っている。
いつもの一之瀬遙だ。
「 あ… ありがと。」
ぼそっと言葉を漏らす。
すると遙はこちらを見た。
『 良いってことよ! 』
ニコリと微笑み抱き寄せていた腕を放す。
密着していた身体が少しだけ離れる。
すると自分の胸の高鳴りに気が付いた。
別に進藤が怖かった、だとかそういうのは無い。
確かに終電を逃したときには冷や汗が出そうだった。
でも、なぜか大丈夫な気がしていた。
カラカラと自転車を牽く。
遙は言葉を出さない。
きっとこういう時、なんて声を掛けるべきか
わからないんだろうと思う。
でもその沈黙が、少しだけ私を落ち着かせた。
『 … 乗る? 』
駅前まで来たところで足を止め遙が言った。
( いや、電車逃したって言ったじゃん… )
『 … 乗らないの? 』
自転車に跨りながら遙がきょとんとこちらを見る。
ああ、そっちか、と私は理解した。
キュ … ギィッ
無言で遙の後ろに乗ると
遙は自転車を漕ぎだした。
お風呂上がりの匂いがまだ残っている。
『 さっきは悪かった。』
普段より少し低めのトーンで遙が言う。
「 … ん 」
『 でも可愛い音夢も悪い。』
「 … はぁ? 」
音夢も悪い という単語で思わずイラっとする。
『 小食系男子なら小食系男子らしくしてろよなー… 』
「 ふっ、… なにそれっ 」
思わず笑みが零れてしまった。
ちらりと遙が後ろを振り向く。
私の笑った顔を捉えた様だった。