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公衆便所から始まる
第6章 揺らぎ
「はいこれ、約束のバイト代」

事務所のパソコンの前に置いてあったのを、指で挟んでぴらっと渡された封筒。
そーいえばそんな約束だったっけ。
いやでも俺別に働いてないし、店閉めてたんでしょ?

中を見ると、3000円。
━━やられた。恥ずかしい。
俺はがっくりと膝を突いた。
ここに呼んだときからそのつもりで、最初に会ったときのを返された、ってことだ。

「男のプライドってのもあると思うんだけどねー。大人のプライドってのもあるんだよね」

えぇ、そうでしょうとも。正論すぎて耳をふさぎたい。
つまり、

「俺もさ、輝とは仲良くしたいと思ってるんだけどさ。親に金出してもらってる学生ちゃんから半分でもラブホ代出してもらうわけにはいかないのよどぉーしてもね。仮にも社会人だしね」

ってことですよね。

だいたい有紀人さんのなにが『仮にも』なんだろう。
俺にはそれすらわからない。

どっかでお礼言って帰らないと。
そう思いながら俺が磨かれた有紀人さんの靴を見つめていると、

「だからさぁ、」

少し声が笑ってる。

「……?」
「俺の口説き方考えてよ。輝なりのさ」

俺は勢いよく顔を上げた。
突き放すみたいな色は、もう有紀人さんの目にはない。
『仲良くしたい』ってのは本当なんだ!

「年下の犬なりのっすか」

有紀人さんはふふっと笑うと、

「わんこだよ」

俺の頭をわしわしっと撫でた。
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