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月の吐息
第1章 三日月




「開けてみて」


「ちょっと・・、やだ、待ってよ」




誤魔化し笑いをしながら、勢いに押されて箱を開く。




「うわ・・・」




淡い光でも分かる。綺麗な銀のネックレスだ。




「1週間後に、帰ってくるからさ。それまで、考えといて欲しい。な?」

「・・・・・・。・・・うん、分かった」



迫力負けした。

声が裏返りそうで、ちょっと神妙な顔で頷いたりしてみる。




「あー。・・・先週の映画さ、それ受け取れる日が、その日しか無くて、ドタキャンしちゃったんだ。マジ、ごめん」

「え? 受け取り?」

「そ。オーダーメイドってやつ」




言われて良くみたら、三日月と星のチャームが付いてる。凝ったデザインだ。


参った。暗がりじゃなかったら、頬が赤くなってるの、絶対にバレてる。
どうしろってのよ、この状況・・・!

流石に健二も、今日の、この一幕のエンディングまでは考えてなかったみたいで、変な沈黙が胸に痛い。




「よし。以上。終わり。あ、俺、ここの鍵、返さなきゃなんねーからさ、たまには、美月、先に帰んない?」

「ん? うん。そう、だね。そうする、かな?」




お互い一人暮らしで、最寄り駅も近いけど、このまま一緒に帰るなんて、恐ろしく気まずい。

ネックレスの箱を閉じる音がやけに大きく響き、妙にヒヤヒヤしながら、プレゼントを鞄にしまった。







エレベータに乗って、先に私が降りることにする。
明るい箱の中から、健二を見ると、一瞬照れ笑いを浮かべて見えた。
ちょっと待て。私はイエスなんて言ってないんだからね?

「じゃあ、また、来週」

「え? あー、そっか。うん、また来週。イタリア、行ってらっしゃい」

「おう」




健二の笑顔が、エレベータの扉の向こうに消えた。




「・・・・」




傘を持ってない方の手を、思わず頬に当てる。



なに、あれ。なに、あれ。なに、あれ!



まだ、心臓がバクバク言ってる。むしろ、身体中が心臓みたいになってる。




「・・・ふぅ」




考えない。考えない。私は、何も、考えてない!




地上に到着して、エレベータを降りると、深呼吸してから、傘を開いた。



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