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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
* * *
鈴の音に一番敏感に反応するのは国崎だ。
佐々木よりも若い身でありながら、バーテンダーチームのチーフとしても場を取り仕切る彼は、来客へのアクションが素早い。
その女がフロアに足を踏み入れた時にも、素早く小鳥遊の様子を確認した。
彼の接客状況ならば、あと8秒以内に案内に入れるだろう。
初めての入店であろう彼女の背中をサラリと確認し、若い黒服に場を任せようとして、振り向いた彼女の表情に国崎は軽く眉を上げて、瞬いた。
(・・・)
* * *
接客を終えて、小鳥遊は素早く振り向いた。
フロア中央に、新たな客の姿が見える。黒いワンピースの若い女性だ。
月曜の、この時間に客の来店が続くのは珍しい。
そんなことを考えながら、小鳥遊は先客のオーダー内容を佐々木に通すと、その足で女性の前に歩み寄った。
「いらっしゃいませ」
「あ、はい」
俯いた彼女の、声が随分と若い。
反射的に、その客の身なりを再確認する。
ワンピースから、ほっそりとした綺麗な腕が覗き、その手はベージュのボレロと品の良いハンドバックを携えている。
(未成年だったら、やべーな)
『Dance』は基本的に客の区別はしない。
アルコールが得意な客も、苦手な客も、どちらも受け入れる方針だし、例えば人種による差別も無い。未成年でも、成人した大人と共に入店していたり、何か事情や目的があっての来店であれば、無碍に断らない。来店者の想いを最大限、重視しているBARである。
とはいえ、やはり未成年が一人で入店するとなれば、BARとしては通常よりも神経を使うことになる。
アルコールを飲ませない。酔った客の妙な干渉を防ぐ。そして何より、客本人が無茶な行動を取らないように見守る必要がある。
単純なことだが、小鳥遊が一瞬、エスコートすべきか判断に迷った。
彼女は自分のネームプレート辺りを見ているようだ。
少し考えてから、彼は口を開いた。
「カウンターで、よろしいですか?」
「・・・はい」