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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
全ての従業員がそうするように、真菜も、吸い寄せられるように入り口へ視線を向けた。
誰の案内も受けずにフロアに入ってきた女性は、いつかビルの1階で出会った女性だった。
柔らかそうなウェーブした髪と、大人の雰囲気をまとった彼女は、今日は濃紺のサマーニットに、大きな花の模様が散りばめられたスカートを身につけている。低めのヒールの音を鳴らしながらフロアに入った彼女は、迷うことなくフロア左奥へ足を進める。咄嗟に、真菜は俯いた。その耳に、近づく彼女の、会話だけが聞こえた。


「詩織、例のもの持ってきた」
「ありがと」


一瞬足を止めた彼女が、バーテンダーに微笑み、直後、その横を、黒服のウェイターが通り過ぎた。


「おはよ、ハルト君」
「おはようございます、詩織さん」


にこやかに会話を交わし、彼女が真菜の横を通り過ぎる。
だが、詩織のまとう甘い花の香りも感じられないほど、真菜は衝撃を受けていた。
背後で、扉が閉まる音が、遠く霞んで聞こえた。
親しげに自分の教師と話をする女に、先程まで穏やかだった彼女の心が驚くほどざわめいた。



佐々木が目を離した一瞬だった。



真菜は、隣の客が頼んでいたスクリュードライバーを手にし、グラス半分ほど残っていたそれを、一気に飲み干した。


不意に嚥下したアルコールに、喉奥がカッと火照る。


初めてのアルコールは、体験したことのない不思議な酩酊を真菜にもたらす。


「お客様」


事態に気づいた佐々木の声が、低く鋭く真菜に向かった。


気配に彼が振り向き、見覚えのある眼鏡と、その表情に、息を飲んだ。


「真菜ちゃん・・・!?」



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