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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
声を上げたのは小鳥遊だった。
突然の出来事に何が起きたか気づいていない隣の客へ、佐々木が黙ってスクリュードライバーを作り直す。
その佐々木の目の前で、真菜は座ったまま、ただ一筋、涙を流していた。
小鳥遊は、教え子の意外な格好と、初めて見る泣き顔にフロアの中央で動けずにいる。
「小鳥遊」
動転する彼を、国崎が小さな声で叱責する。
はっとした彼が彼女の元へ歩み寄った。
佐々木が新しいグラスを提供するのを見て、国崎が小さく息を吐いた。
「これ、俺じゃなくて、庵原の担当なんだけどな」
告げて、徐ろにボトルのネックを掴むと軽く宙に放り投げた。
* * *
国崎のフレアバーティングにBAR全体の意識が引き寄せられた一瞬、小鳥遊は真菜を連れて黒い扉の中へ一度避難した。
月曜とはいえ、そこそこ混雑している今日は、流石に自分が長い間ここにいるのはまずい。
だが、突然訪れて、涙を流している真菜を置いていくことは出来ない。
男性用控室の扉前で、困ったように足を止めた小鳥遊の耳に、不意に女性の声がかかった。
「ハルト君?」
詩織の顔が、女性用の控室から覗いていた。