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講義の終わりにロマンスを
第3章 変装と女心
―――ね、真菜ちゃん
例のファミレスでシェイクを飲んでる私の耳に、詩織さんの言葉が不意に蘇った。
―――内緒だけどね、ハルト君って、金曜日だけ、早めにBARに来てるの。
金曜日まで、あと3日。
―――何でか分かる?
分かんないよ、詩織さん・・・。
大人になりきれなくて、周りの人に迷惑ばかりかけて、憧れの人をびっくりさせることしか出来ない私には、詩織さんみたいに大人の世界のルールは、まだ、分からない。
俯いたままの視界が歪んで、眼鏡のレンズに涙が落ちた。
泣いてる時でさえ、私は地味。
ドラマの女優さんみたいに、涙が頬を伝うような綺麗な泣き方も出来ない。
「・・・・」
鼻をすすって涙を誤魔化しながら、詩織さんは綺麗に泣くんだろうな、と、どうでもいいことを考える。
一瞬、その横に立つ先生の姿を想像してから、慌てて首を振った。
それから、ふと、泣いていた私の肩を包み込むように抱いてくれた先生の匂いを思い出した。
知らない匂いだった。
いつもみたいなシトラスミントの香りじゃなくて、何か甘く鼻を撫でるような、それでいてビターな香りだった。
私の知らない先生、私に秘密を持っていた先生―――。
その嘘に気づいた時の驚きを思い出して、また、胸がチクリと痛んだ。
私は先生のことを、まだ何も知らなかったのかな。
真面目で優しくて、時々、冗談を言って私を笑わせてくれる、そんな先生の姿は、偽物だったの?
―――いい? 真菜ちゃん。忘れないで、金曜日よ。
詩織さんが私の家から立ち去る寸前、最後に振り向いて笑ってくれた顔を思い出す。
詩織さん、金曜日に、何があるの?
先生は、他に何を隠してるの?
暫く目を閉じて考えてから、私は、金曜日に、BARに行ってみることを、決めた。