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夢想姫の逃避録
第1章 泣かないで
口元を優しく触れてくれていたその指先、手はそのまま緋奈の髪を大事そうにゆっくりと撫でた。
すると、緋奈の頬に雫が降ってきた。
その男の人は泣いていた。
生温かい涙。
さらにもう一粒降ってきた。
「どうして……?」
「大丈夫だよ……大丈夫だからな……俺は緋奈の味方だよ」
「……嘘よ……そんなの嘘よ……」
緋奈も涙が溢れ出した。嘘だと言いながらいちばんの嘘つきは緋奈だ。
素性も知らないいつの間にか部屋に忍び込んできた男の人に、心を許そうと揺らいでいたから。
しかも勝手に入ってきたのに恐怖感なんてほとんど感じなかった。
でも緋奈は信じることが怖かった。
誰も信じないって心の中で言い聞かせることで、嘘だって繰り返し口から毒を吐き続けることで自分自身を守るしか出来なかった。
「ありえない……こんな事……ありえない……都合のいい夢を見てるだけよ……白馬の王子様なんて……信じないから……!」
嬉しがってる心とは裏腹な言葉で、必死に陥落しそうな自分自身を守り続けた。
それでもその男の人は表情を一切変えずに、こう続けた。
「泣かないで……もう大丈夫だよ…今助けるから待ってて……?」
スッ……と、心が軽くなった。
それと同時に暗転。
深い眠りに落ちた。