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夢想姫の逃避録
第8章 おいで

小さくすすり泣く声が聞こえる。

その声に反応して目を開けると、俺の腕の中にいるお姫様が、肩を震わせて泣いていた。

お姫様はたまに夜、こうやってひとりで泣きだすことがあった。

理由は知ってる。

あっちの世界の奴らがお姫様を連れ戻しに来るんじゃないかって、不安で仕方なくなっちゃって発作を起こすんだ。

俺はその度にお姫様を強めに抱き寄せて、髪を撫でながら、頭をポンポン叩きながら、たまに背中をさすりながら慰めた。

「大丈夫……俺はここだよ…どこにも行かないから心配すんな?もう大丈夫。大丈夫だからな……」
「でも…でも…っく……ひっく……」

泣き止まないお姫様。

俺はそんなお姫様から少しでも恐怖心を取り除けるように、そっと指先でお姫様の濡れた頬に触れてから、手のひらで包み込んだ。

俺とこうして出会うまで、温もりなんてお姫様は知らなかったんだ。
だから、せめて俺の手の温もりでひとりじゃないって、もう大丈夫だって、俺はここにいるって伝えられたらと思った。

怯えるお姫様が少しでも安心できるように、落ち着けるように俺はそっと笑いかけた。

「大丈夫だからな……ここには俺と緋奈だけしかいないよ…」
「…ユウガ……行かないで……」
「行かないよ……俺はここにいる」
「ひとりにしないで……」
「ひとりぼっちなんてさせねえよ。寂しい思いなんてもう2度とさせねえって言っただろ?」
「人が……ユウガ以外の人が怖いよ……誰か入ってきたら………」
「大丈夫。俺以外は誰もいないよ。それに、俺以外の奴らなんてもう誰も信じなくていい。俺だけを信じて……俺はあいつらとは違う。もう緋奈にあんな辛い想いなんてぜってえさせねえから。緋奈は俺が守るから……安心して……大丈夫……もう何にも心配しなくていいからな……」

大丈夫だよ……もっとこっちにおいで……?
もっと近くで守れるように、愛せるように……

大切な大切なお姫様。
俺の腕の中にいればもう安全だから……
何にも心配しなくていいから……

大丈夫。邪魔する奴は全員消し去ってやるから。

心配しないで……俺がここで見張っているから……
安心して眠って……。
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