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蜜刻に揺れて
第8章 奥深く暗い森
「ちょっ…片付けもしないで!」

「いーのいーの、片付けしてる時間すら邪魔なんだって」

エレベーターに乗ると竜は身体を摺り寄せて来た。

ビクッと静の身体が強張る。

「慰めてよ、頑張ったでしょ?」

静の頭に寄りかかる様に竜の頭が乗り、ふざけているのかどうかの確認も出来ない。

「た、ろーあと数時間で仕事なんでしょ?」

「そう、正確にはあと15時間しかない」

「帰って、寝ましょう、ね?」

「うん、寝たい」

何処か会話が噛み合っていない様な気がしながらも、静はそれを改めて確認出来なかった。

「ハナコ、眉間にシワ!構えすぎ」

「う、うん、ごめん…」

「ま、振り出しって事で」

ふわっと軽くなった頭に一抹の寂しさが襲う。

竜が勇気を出して撥春とあいりに向き合ったのは解っていた。

静もまた向き合わなければならない。

「タロー、あの…私…」

「感化されて言うとかやめて」

「違っ…!」

「焦らなーい、焦らなーい」

見上げた竜はふっと顔を緩めるだけ。

エレベーターを降りるその瞬間、静は竜の腕を掴んでいた。

「静?」

竜の声が胸に響く。

ずっとずっと奥に深く沁み入って、もう無かった事になど出来ない。

「竜が…欲しい…です…」

無意識に溢れたその言葉も後戻りは無い。
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